ネタ置き場

深夜に書いてそのままフェードアウトしたが故にその後の展開を忘れたり
深夜ゆえに話の展開がいつもよりも更によくわからなかったり
そう言ったものがグダグダと垂れ流して置いてある場所です
※基本的に途中です(オチてない)
※ひばでぃの中心のでぃの受です
気まぐれで消えたり増えたりします
オチを思い出したりいいコト思いついたら
格上げするかもしれないそんなブツ



「今日はね、僕の誕生日なんだ。」
へ。
気の抜けた声をあげるディーノを意に介した様子もなく、カップの中の波紋に視線を向けた雲雀が唐突にそんなコトを言い出した。
いつも通り暇を見つけて日本に来て、ついでに雲雀に会いに応接室に来て、お土産のクッキーを持ってきたディーノに雲雀が紅茶でもてなしてくれて、そうしてそれを啜りながらクッキーを摘まんで、3時のティータイムを楽しんでいた矢先だった。
ディーノは開いた口が塞がらなかった。手にしていたクッキーをポロリと膝の上に落としても気づかない程。元々ポロポロと零していた食べカスと共に、膝の上にいたエンツィオがそれをのっそりと頬張る。
雲雀はそんな家庭教師のペットに視線をくれながら少しだけ目を細めてもう一度、誕生日なんだ、と。反芻させるように繰り返した。
「……え、ええぇぇ、そう、なのか…?」
「うん。」
「ええぇぇぇ。」
突然教えられた事実に忙しなく瞬きを繰り返す。
本当に突然だ。
ディーノは雲雀の家庭教師に任命された際にもリボーンに、雲雀恭弥という問題児がいてソイツのかてきょーになってくれと言われ、ついでとばかりに顔写真を貰っただけだった。
故にプロフィールを一切知らないでいたのだ。
元々雲雀は自分のコトを話すタイプではなかったし、ディーノはディーノで雲雀と会えばそういった質問よりどうしても世間話などに(一方的だが)花を咲かせてしまう性質だった。
「お、おめでとう。」
「うん。」
「前もって言ってくれりゃ良かったのに…。」
そうすればプレゼントだって何だって用意出来たのだ。
ディーノの中の誕生日というものはやはり人に囲まれ賑やかで幸せな時間というイメージである。…人が群れるのを嫌う雲雀がそれに同意するとは思えなかったが。いや、でも、この可愛い愛弟子にせめてプレゼントくらいは用意したかった。
「……うん。」
「あ!今から何か買いに行けばいいか。何か欲しいものあるか?」
名案とばかりに目を輝かせたディーノに雲雀はゆるゆると首を横に振って、紅茶の入ったカップに口をつけるだけだ。
「何だよー、折角じゃねぇか。貰っといて損はないだろー?」
「……うん。」
「………?」
今日はどうも、雲雀の様子が少しおかしいような気がする。
歯切れが悪いとまではいかないが言いたいコトをキチンと言っていないような感じがするのだ。珍しい。つい何かあったのかと心配になってしまう。
「なぁ、何かあったのか?」
「………アナタが突然ここに来た。」
「うっ。いや、それは――…確かにそうだけど、や、でもそれって割といつものコトじゃねぇ、か…?」
自分が来たコトによって不機嫌…というわけでもなさそうだが、本調子ではないのだとすると少し…と言うかかなり落ち込むと言うか何と言うか。突然来たのは驚かせたいと言う悪戯心もあったものだから申し訳なさも手伝って、ディーノはしょんぼり肩を落とす。
すまん。そう言おうとするディーノに気づいてか、言葉が形になる前に雲雀が先を塞いだ。
「今日、アナタが来るだなんて思っていなかった。」
「…連絡しなくてわるか――、」
「来るだなんて、思っていなかったんだ。」
そう言いながら雲雀が、手にしていたカップをテーブルの上のソーサーに置いた。
中身がちっとも減っていない紅茶にディーノが気を取られた一瞬、
「わ。」
ぐい、と。思いきり引き寄せられる。
元々ソファに座っていたところを横から引っ張られたものだから、当然横倒しになってそのまま膝枕されてる格好になってしまう。膝の上にいたエンツィオはどうにか落ちずに済んだが、雲雀がひょいと取り上げてテーブルの上に置いてしまった。
「な、何だ?」
「…………賭けをしていた。」
ディーノが起き上がらないように額を押さえながら上から覗き込んできた雲雀が、小さく呟くように、言葉を吐き出した。
「アナタが今日来なかったら、全部無かったコトにしようと思ってた。」
…何を?
ディーノが視線で問うても雲雀は宥めるように空いた片手でディーノの髪を梳くだけだ。
動物扱い…とも違う。何だろうか。酷く落ち着かない。
「――――…でももし、アナタが…今日、僕に会いに来たら、」
…言葉を呑み込むように瞼を閉じた雲雀が、ディーノの目にはとても綺麗に映った。
思わずと言った具合に手を伸ばして雲雀の頬に触れた。
ハッと目を見開いた少年に驚いて、ディーノも触れさせた手を強張らせる。そのまま下ろしてしまおうとした手を、雲雀がディーノの額を押さえていた手で慌てたように上から重ねて頬に留まらせた。
恭弥?
小さく空気を揺らした呼び声に反応した雲雀が、その薄い唇をそっと開いた。
「…………何で、」
たっぷり息を吸い込んでやっとそれだけを呟いた雲雀は少しだけ躊躇したように視線を彷徨わせた後、意を決したようにその鋭い目線をディーノに向けた。
「…何で来てしまったの。」
苦しそうにそんなコトを言うものだから、ディーノは苦しいのかと問うた。雲雀は少しばかり笑って、苦しいよ。…掠れた声だった。
「アナタを諦める、いい口実になると思ってたのに。」
諦める…?
ディーノの手に触れている雲雀の手が小さく震えているコトに気づいた。
減っていない紅茶。
うまく言葉を続けられない、熱い息。
「欲しいものはひとつ。」
…ここまで来てさすがに気づかないディーノではない。
ふるりと身体を震わせあわただしく目線を逸らす。踏み込もうとしているものが禁忌であるコトを
「―――、あ、あ、えっと、こ、紅茶冷めちゃったかな、今度はオレが、」
「逃げないで。」








「どうしたのそれ。」
「ん?」
雲雀が知る限りではいつだって裸眼の状態だった。
特別目が悪かったわけでも無かったと思う。別に心配してるわけではないが、いつもと違えば気になるものは気になる。雲雀はそういったものを無視したまま放置しておく性質では無かった。
…ので、挨拶もそこそこに尋ねたわけなのだが。
「似合うか?」
「…そんなコト聞いてない。」
上機嫌にうきうきと尋ねられれば自然と苛立ちも隠せない。雲雀は今そんな話をしているわけではないのだから。
「先に質問したのはこっちだけど?」
似合ってるか似合っていないかで言えば――…確かに似合ってはいた、けれども。
茶色のフレームが程よくやぼったくない軽さで、色素の薄い彼の目元を印象付けている。
元がいいからね、と雲雀が思ったかはさて置き。
ずれ落ちそうになるのを不器用に戻す様はどう見ても不慣れだ。加えて先程の質問…『似合うか?』そこから感じ取れるニュアンスはどうにも明るく、後ろ暗さも何も全く感じ取れなかった。これは、
「貰ったんだよ。だからかけてみたんだけど。」
変か?
そう言いながら楽しそうにしてる様子を見れば雲雀も溜息を吐くしかない。
つまり、伊達か。
「……。」
「…あ、もしかして心配でもしたか?」
「――…誰が。」
そんなものするはずないのに何を言ってるのだろうかこの男は。
雲雀はもうそれでこの話は終えたつもりで革張りのソファのディーノの隣に腰を下ろす。
定位置というヤツだ。ディーノは放っておくと何をしでかすかわからないから何も無い限りはそこに座らせて置く。雲雀がそう決めた。
だから別に隣へ座るのに特別な意味など無い。
雲雀がそこに座るのはこのソファを気に入っているためだ。
「何だよー結構好評だったんだぜ?」
「……誰に。」
雲雀が似合うともオカシイとも言わなかったのをどう取ったのか、ディーノがツンと小さく唇を尖らせて拗ね気味にそんなコトを言う。アナタいくつなの。彼の年齢を知ってはいたが、こうして歳不相応な態度を取られるといつだって問いただしたくなる。
「ロマーリオたちとか。あ、あとツナたちとか?」
だからお前にも見せに来たのに。
反応がいまいちな雲雀に残念そうな表情をしながらも、その実、見た目ほど気にしていないのはお見通しだ。あらかた予想でもしていたのだろう。
…それが少し気に入らない、なんて。ディーノもさすがにそこまでは読んではいないに違いない。秩序を作りたがる雲雀は、他人の決め付けられた事項というものを嫌っているからだ。
それに、
(別に変なんて言ってないじゃない。)
ディーノ自身は兎も角として、彼の容貌は気に入っている雲雀だ。
例えば顔にかかる髪を耳にかける動作、例えば本に落とされ物憂げに伏せられた瞼、長い睫。何を言い出すかわかったものじゃない桜色の唇も悪くない。声も、均整のとれた体つきも。手は傷や肉刺の痕でお世辞にも綺麗とは言い辛かったが(何せ雲雀の知らないところでも彼の獲物を振るっているのだろうから)カタチは悪くないし。長い指は見ていて不快じゃない。スラリとした足はしなやかで、こうして隣に座っていて、例え足が誤って触れ合ってしまったとしても、機嫌が悪くない限りは制裁を与えたりしない。雲雀にしては異例だ。
「バカみたい。」
「お前な〜。」
薄いレンズ越しの瞳にどうしてだか苛立つ。
何でこの男はこうも機嫌がいいのか。
「…貰ったって聞いたけどそれ。」
「ああ、こないだな。」
よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに目が瞬いている。雲雀が機嫌をまた少し傾けたのに気づく由も無く。
「オレガノ――…あー、家光…ツナの親父さんな、その人の部下やってるヤツで、ソイツ眼鏡してるんだよ。そんで、こないだ出掛けた時に――」
「女の人?」
「へ?」
「女の人でしょ、それ。」
よくわかったなと呟くディーノにわからないはずがないと返す。頭の中で。
この男はそういう所にだらしがないと言うか。いや逆にしっかりしているのか。雲雀の基準から言えば前者だが、兎に角ひどいフェミニストなのだ。
「でれっとしちゃって、キモチワルイよ。」
「誰もでれっとしてねぇだろー?」
「ニヤニヤしてたよ。」







似たようなテンションばかり


「別に、アナタの身体に興味があるから。」
それだけだよ。
着衣を整えながらディーノの方を見るコトもなく雲雀がそんな風に言うものだから、思わず脱力して再び枕に沈む自分は悪くないとディーノは思う。
ああそうですか。
そんな言葉すら出ない。
あれよあれよと押し倒されてそのままなし崩しに受け入れてしまったのは確かに自分で、だから雲雀を責めようとかそういうわけではないのだ。こう言うのもあれだが昨夜はふたりとも珍しく酔っていた。とりあえずディーノはひとりで立ち歩けない程には酔っていて、雲雀も雲雀でそんなディーノを介抱する位には(普段は絶対にそんなコトなどしない)酔っていたはずだ。
(いやだからホント責めようとかそういうわけではなくてだな。)
ただもう少し違う言い方があるんじゃないという話で。
(言うに事欠いて興味って…興味本位ってお前…。)
ああもう全て忘れてこのまま寝てしまいたい。
うー、と。自然と小さく唸ったディーノをどう思ったのか、雲雀が息を吐く気配がする。
お前あれだろそれ、鬱陶しいなとか煩わしいなとかそういうんだろ。
埋めていた顔を上げてそっと目線を雲雀に向けると、じぃっとこちらを見つめている瞳とかち合った。そっぽを向いていると思っていたので驚いてしまう。
「…あ。」
「シャワーでも浴びてくれば?」
すっかり身だしなみを整え終え、昨夜の乱れなど露ほども感じ取れない怜悧な眼差しと口調で雲雀がそっけなく言い放つ。全くもっていつも通りの雲雀だ。
「お前、なぁ…。」
「何。責任でも取れって言うの。」
「…んなコト言うわけねぇだろ。」
「だったら『あいのことば』でも欲しいって?」
「――…いらねぇよ。」
雲雀が自分にそんなものを抱いているとは思っていない。思っていないし、嘘なんか欲しくない。ただどうしてと思うのは間違いなのだろうか。
「いらないの。」
「…いらない。ただ何でだって思うだろ…普通。」
「そ?」
「お前は思わないのか?」
「思わない。」
思わないよ。
きっぱり言い切る雲雀にまたガクリ。常々価値観が違うとは思っていたが。
「…頭いてぇ。」
「二日酔い?」
「――かもな。」
まぁ、雲雀が気にしていないのなら、いつまでも気にしているのもおかしいか。ディーノはそう思うコトにする。
…酔いのせいだ。
ディーノも雲雀も酔っていた。
「…?何。」
むくりと起き上がったディーノに、雲雀がひょいと小首をかしげる。
「シャワー浴びてくる。」
「もうウジウジしないの。」
「してねぇよ。」
「してたじゃない。」
してねぇ。
もう一度言って足を地に付ける。
ふわふわとした浮遊感のようなものがあったが、ゆっくり力を入れていけば徐々に目もしっかり冴えてきた。その間ずっとディーノを見つめていた雲雀がまた小さく息を吐く。
「何だよ。」
「別に。悪くなかったよって。」
「……。」
どうしてコイツはこうも意地悪なのか。
ディーノはアホかと言葉を置いて、宣言通り浴室に向かった。


「…馬鹿な人。」
先程までディーノが寝転がっていた寝台に腰を下ろしながら、本日3度目の溜息を吐く。
くしゃくしゃに乱れたシーツに昨夜の名残を色濃く感じる。目を閉じればディーノの痴態をしっかりと思い出せる――…程に、雲雀は前後不覚には陥っていなかった。
覚えている。肌で、舌で、唇で。感触を、味を。
匂いまで記憶に染み込む程に。常から甘ったるい声がそれよりもずっと蕩けて、小さく、掠れていく。息すらも取り込んだ。そう思えるまでに近かった。
(酔っていたってどうして思うの。)
雲雀はしっかり言ったのに。
『アナタの身体に興味あるから』
「僕が結構潔癖症なの、アナタ知ってるくせに。」
興味がある、って。現在進行形で言ったのに。
何とも思ってない人に触ろうなんて思わないよ。そう呟いてもあの男には届かない。







※ひばでぃのでごくでぃの


ディーノが雲雀に
「恭弥。俺、お前のコト好きなんだ。」
そう告白して
「そう、僕はアナタなんか大嫌いだよ。」
と、即答されたものの、
「うん。やっぱりそうだよな。」
わかりきっていた答えだったのでディーノは穏やかに笑った。
見上げる空は突き抜けるように広く、青かった。
「そうだよな。」
飛行機雲が長く続いている青空の下。
ひとつの恋が終わった瞬間だった。


10年も前の話だ。



「…っんでてめぇが来てんだよっ。」
驚いたように目を見開いたと思ったら次の瞬間にはギロリと睨まれて怒鳴られる。
ディーノは苦笑した。
「ちょうど仕事の区切りもついたし、ちょうどいいかなって思ったんだ。」
「何が『いいかな』だっ、このへなちょこ!!」
ディーノの襟首を掴んだと思ったら部屋に引き込んできた。突然のコトで体勢を整えられるはずもなく派手に転がるように倒れこんでしまう。
しかしそんなコトも予測の上だったのだろう。引きずり込んだ相手はそんなディーノにお構いなくとっととドアを閉めて鍵をかける。
「いっててて…。」
「…アホ。」
罵りながらもちらちらこちらを見ている。
何だかんだで人がいいのをディーノは知っていた。へらりと笑みを刻む。
「スモーキングボム。」
「てめぇは底なしのアホだ。ホント。」
「何だよ。別にふらふら遊びに来たわけじゃねぇじゃんか。」
「アポ無しで来るコトに問題があるってんだよ!俺はシャマルが来るって聞いてたんだっ!十代目だってそう思ってる…ったく!来るなら来るで前もって連絡しやがれ!このへなちょこ!!」
見下しながらも、来るコト自体は問題ない、と。遠回しに怒鳴ってる獄寺に笑みは深くなる。
受け入れられているのは純粋に嬉しいものなのだ。
「果ててぇのか…?」
「あーっ違う違う!…ホラ、シャマルから。」
彼がダイナマイトをそっと手にしようとしてるのを感じ、慌てて話題を逸らしながら件のブツを目の前に翳す。チッと舌打ちした獄寺は懐から手を離すとディーノの手からぶんどるようにそれを奪った。
火傷の薬である。
扱うものの特性上どうしても火傷とは縁の深い獄寺だ。
改良のための実験や修行、実践でも全く無傷というわけにはいかないので頻繁に必要となるらしい。あらゆる方面の医学に精通しているシャマルの薬が一番よく効くらしく、定期的に
獄寺の元に届けられるのだと聞いた。
「…てめぇが来るなんて聞いてねぇ…。」
同じような台詞、さっきも言われたような気もするけどなぁ。
ディーノはわしゃわしゃと自分の髪を掻く。変に生真面目な所のある彼のコトだ。
ここはボンゴレの屋敷で、つまりは獄寺が忠誠を誓う十代目の屋敷なのだ。
獄寺の私室で、かつ私用でもあるが、誰が来るのかなどきっと前もって言っておいてあるに違いない。それを不可抗力と言えど破ってしまったカタチになるのが不満なんだろう、と。ディーノは見当をつける。
「あーっと…ツナには俺からちゃんと言っとくし、な?」
「てめぇごときに十代目の貴重なお時間を割かれてたまるか…へなちょこ。」
先程とはだいぶ威勢が違う。
座り込んでいるのもあれなので立ち上がると、見下されていた目線は逆に上目遣いになる。身長はまだまだディーノの方が大きいのだ。
「えらく不機嫌だな。まぁそりゃ、シャマルに会いたかっただろうし、ツナにだって耳に通しておきたかっただろうけどなぁ……俺だって来たくて来たんだから、そんな怒んなよ。」
「ずうずうしいんだよ、てめぇは。」
ぷいとそっぽを向いてしまう。
こうすると幼さが際立って可愛いと思ってしまう。ディーノは穏やかな気持ちで獄寺を見やった。その視線を感じてか、獄寺は気まずそうに視線を合わせたり逸らせたりを繰り返した後、
「…か……ぃって思っただろ。」
「うん?」
「……だ、から…かっこわりぃって、思っただろうってっ。」
「何がだよ。」
「――だから!火傷とかしてんのがっ…!」
がぁっと吼えた獄寺にディーノはきょとんとしてしまう。
今何だかとても可愛らしいコトを言われた気がしたからだ。
「別にそんなコト思わねぇけど?」
「…けっ、どうだか。」
「怪我なんか俺、しょっちゅうだしなぁ。」
何か、非常に拗ねている様子の獄寺が微笑ましい。
素直にそういうコトを恥だと思っているのだろう。しかし彼の作る傷や火傷は全てファミリーのためであり、ツナのためであるコトをディーノは知っている。
「何も恥ずかしくないだろ。」








ちっとはこっちの身になれと言えば、じゃあ試しに立場を交換してみる?などと言われたので。

「こうすればアナタの気持ちもわかるし、アナタも僕の気持ちがわかるでしょ。」
雲雀は先生。
「そうかぁ…?」
ディーノは生徒。
しかしながらソファに堂々とふんぞり返っている先生と言うのは如何なものだろうか、と。ディーノは思ったが雲雀の機嫌が異様に良かったので黙っておくコトにした。
何か良からぬことを考えていそうだがそれはそれだ。
「それじゃあ授業しようか。」
「何の授業だよ。」
「……マット運動とか?」
「体育かよ。」
「ある意味体育だね……ああ、そう、保体でもいいね。」
うん、と何か勝手な納得が雲雀の中であったらしく非常に満足気だ。
おかげでディーノは既に逃げたい気持ちでいっぱいだった。
「たまには頭使うのとかいいんじゃねぇか?」
「そうだね、アナタもたまにくらいは使った方がいいね。」
「お前なぁ〜。」
雲雀は余程暇なのか、割と本気であれこれ思案しているようだ。
日頃の扱いがやたらとぞんざいなため、ディーノが思わず物珍しい気持ちで眺めていると、鋭く気づいた雲雀が目を細める。
こっち見んなってコトか?
そう思ってふいと目を逸らせば今度はそれを咎める様に『ねぇ』と声がかかる。
「…ねぇ、生徒なら生徒らしく『先生』って呼んでみたら?」
「また唐突だな。」
「呼んでみなよ。」
「ってかこれ、お互いの立場を交換してるんだろ?お前オレのコトそんな風に呼んだコトねぇじゃんか。」
「お手本見せてよ。」
じりじりと雲雀が体を寄せてくる。
ディーノがまずいかなぁと腰を浮かしかけたところで腕を無遠慮に掴まれた。
引き戻されてじりじりと。半ば圧し掛かるように雲雀が距離を縮める。
「…ダメな生徒だね。いいよ。僕がお手本を見せてあげるから。」
脇腹を服の上からなぞるように掌を滑らせてくる。ディーノがそちらに気を取られて返事を出来ずにいると、沈黙を勝手に了解と取ったのかそもそも返答など求めていなかったのか、カタチの良い唇の端を上げながら、
「それじゃあ、僕が今から言う言葉を繰り返してね。」
謳うように雲雀が笑って言うには、
「”抱いてください”」
「だいっ――って誰が言うか!」
反射的にうっかり復唱してしまいそうになったディーノは、慌てて前言を撤回する。どうにも元々流されやすい性質なのかはたまたこの少年に慣らされてしまったのか…両方な気もするが。
「復唱するコトも出来ないの、アナタ。」
しかし雲雀もめげない。
だがこう言ってディーノを煽って結局自分においしい展開に持っていくのを知っている。
なのでディーノは毅然とした態度を取ろうとした。
「俺がその手に乗ると思ってんのか?」
「別に。僕が乗るから問題ないけど。」
よいしょ、と。完全にマウントポジションを取られてしまっていた。この少年の展開の強引さには定評があるのを微妙に忘れていたディーノは、あわわと情けない声を上げながら身を捩ろうとする。
「キチンと出来ない生徒にはおしおきが必要だよね。」
「…いや、いやいやいや!そういうのはホラ、言葉で解決するもんだろっ。これはあれ、その、そう、何だ…セクハラとかになんだろーが!」
「ならない。」
「おまっ、どう贔屓目に見たってな、」
「だって合意だもの。」
「………。」
黙るしかない。
ディーノが抵抗してるのは例えば強引さとか今いる場所だとか、理性的な部分であって、確かに雲雀自身は拒絶してないのだ。








好評だったようなので再び格納
※色々と外道です
※根本はひばでぃのですが若干のリバ表現有り
※雲雀が終始デレ


コンコン、と。二度ノックをした後にドアを開ける。返事は元々期待していなかったのであくまで念のために、だ。そうしてこちらも返答を期待せずに『ただいま』と言えば、
「お帰り。」
今そこにいるとは思ってもいなかった人物から言葉を返された。
ドアがパタン、と閉まると同時に買い込んで来た諸々を手から落としてしまう。
「何してるの。」
世話が焼けるねと言いながら、ベッドから降り立つ少年…見間違えるはずもない、ディーノの生徒である雲雀恭弥だ。そんな彼を見つめながらディーノは声も出なかった。
雲雀がここに(ディーノの自室だ)にいるだけでは言葉を失う程驚いたりはしない。つまり度々入り込んでくるコトがあるからだ。しかし今、この場所で、このタイミングで、
「…おまっ、おま、えっ…!」
漸く搾り出した声もうまく紡げない。
そんなディーノをとてもいとおしいものを見るような目線で捉えた雲雀がいやらしく笑っている。その辺から漁ったであろうディーノのシャツだけを申し分程度に羽織った雲雀が、
「ごちそうさま。」
情事の色香を色濃く残しながらそう口にした。

ディーノの部屋には今のディーノの10年前くらいのディーノがいた。
…わかりにくいようだが、要は今のディーノと過去のディーノが同時にそこに、同じ時間軸で存在しているというコトだ。理由はわからない。今朝起きたらそういうコトになっていたのだ。
慌てて誰かに駆け込もうとしたディーノを何故か過去から来たディーノが止めたのだ。
『誰にも言わないで。』
…ディーノは一応過去を振り返ってみたのだが、自分の幼い頃、未来へ来た記憶は無かった。覚えていない可能性も無いコトは無いかもしれないが、兎に角切羽詰った様子で縋りつかれれば、いくら過去の自分自身だとは言え強くは出れない。
彼が言うには明日になれば戻るから待って欲しい。その一点張りだ。
特別害があるわけではなかったし、もし明日になってもこのままだったら誰かに相談すると決めて今日1日は放っておくコトにしたのだ。部屋から出ないという約束もして。

彼が眠っている隙に書置きを残し、部屋を出て、そうして帰ってきた。
誰も入れないように言ってあるので本当に、過去のディーノしかいないと思っていた、そんな中。
「恭弥…。」
「オレンジおいしそう。食べてもいい?」
ディーノの落とした荷物の中からひとつ、色艶のいいオレンジを手に取りながら強請る雲雀に、もう一度、今度は少しだけ語気を強めてその名を呼ぶ。
雲雀は手にしたそれにそっと口付けながら『何?』とディーノを見上げた。
「何、じゃない。…とりあえず、お前が、どうやってここに入り込んだのかはいいとして、」
「これ、アナタが食べさせてよ。」
「ひーとーのーはーなーしーをっ、聞け!!お前がここにいるのかまではいい!そこまではいいとして!だけど、その、あのな、お、お前、過去の俺に、な、なにしてっ…、」
「うん。ナニしてたよ。」
してみちゃったと言わんばかりの軽いノリは如何なものか。ディーノは今にも雲雀を張り倒しそうになるのを必死で堪えてその肩に手を置いた…つもりが思い切り掴んでいた。
「お〜〜ま〜〜え〜〜〜は〜〜〜!!!」
「すごくいい子だったよ。いい声で啼いてもくれたし。ね、昔のアナタも可愛い、すごく。」
「感想とかいらねぇよ!バカ!な、ななな何てコトしてっ、おま、自分が何してんのかわかって…何でそんなコトしてんだっ!」
雲雀の謳うような声は透き通って純粋さすら感じたが、内容がすっかり追いついていない。
ディーノが混乱気味にほぼ半泣きで問い詰めてくるのを不思議そうに見つめながらその目尻をペロリと一舐め。
「どっちもハジメテだって言うから、どっちも貰っておいた。」
だから、ごちそうさま。
至極満足気な雲雀が笑う。
ディーノは恐る恐る雲雀の体に視線を巡らした。首筋や胸元には出来損ないの赤い痕が散っていて、腹部には湿った体液のようなものがこびりついている。
そうして内股の辺りをたらたらといやらしく液体が伝っていた。ぱたぱた、と。そのまま下に零れ落ちるものもある。その度にカーペットに小さく染みを作っていっていた。
「………。」
これは俺(詳しくは過去の俺)も悪いんだろうか。
ディーノは雲雀から手を離して頭を抱えた。
対する雲雀は非常に上機嫌だった。
(…どうしてくれようかもうこれ。)
もう一人の自分が何故かいるというだけでもだいぶ頭が痛い問題だったのに、何かもう更に問題が増えたと言うか。
「―――…兎に角、お前はシャワー浴びて、ちゃんと洗って来い。」
「何で。」
「いいから。」
「………怒っているの。」
「………。」
それには答えなかった。いや、答えられなかった。
「…話は後だ。」
「別に、アナタを、怒らせたいわけじゃ、ない。」
「……。」
雲雀が真剣なのはわかる。
だけど、いや、だからこそ、だろうか。
言葉に詰まる。不謹慎にもいっそ悪ふざけなら良かったのにと思いかけて慌てて首を振る。最悪な考えだ。どちらにせよ沈黙は解決にはならない。…のがわかっていても混乱しすぎて何を言っていいのか本当にわからないのだ。
「…そういうのも後だ。今俺、色々パニックで何て言ったらいいのかわかんね…。」
「――…無理やりでは無かったよ。」
それはフォローなのか追い討ちなのか。
怒らせたくないと言っていたから恐らく前者なのだろうが、どうにもフォローしきれていないのは絶対に気のせいではない。
「アナタを怒らせたいわけじゃない。」
雲雀は繰り返す。
いつの間にか少し俯いていた。手にしていたオレンジをディーノの指先に触れさせてくる。思わずと言った具合にディーノが受け取るとそのまま浴室へと踵を返した。




泣きそうだったから。
雲雀と丁度同い年くらいの過去の自分。
今にしてみれば確かに頼りないほどにか細くて、これなら周りが過保護になるのも頷けると今更ながら実感した。ベッドに横になりシーツにくるまっている。
「キョーヤ、だって、泣きそうな顔してたんだ。」
雲雀が浴室に去っていった後、ディーノは当然もう一人の自分に問いただそうと寝台に向かった。自分と雲雀のやり取りに全く反応していなかったので寝ているものだと思ったら、どうにも眠っているフリを決め込んでいたようだ。
ディーノが覗き込んだ途端、肩が大げさな程に震えたから一発でわかる。
案の定『お前、ずっと起きてたな』と言えば、肯定の言葉が返ってきた。
雲雀も雲雀だが、この、過去の自分もさっぱりだ。
自分は本当にこんな子供だっただろうか。逃避もしたくなるというものだ。
「……よくわかったな。」
「わかる、よ。」
「そうか。」
「………うん。」
自分に話しかけると言うのは本当に不思議なものだ。
多分それはお互い感じているものだろう。
雲雀が泣きそうな顔をしていたから。
だから抵抗も何もしなかったという彼を、ディーノは複雑な思いで見つめる。
耳を澄ませば遠くから水音が聞こえる。雲雀がシャワーを浴びている音だろう。
「キョーヤのコト、怒るなよ。」
「…。」
当人がそういうのだから(自分自身ではあるが)いいのだろうか。
よくない気もする。
別にディーノとて、愛のある関係が絶対と思っているわけではない。
けれどもどうにもやりきれないと思うのは間違っているのだろうか。
「キョーヤだってバカじゃないんだ。」
「…会って間もねぇのに、よくわかるな。お前。」
そう言うと弾かれたように目を見開いた。
まずいコトを言っただろうか。しかし口を開こうとするディーノを、過去のディーノが許さない。
「俺のコトはいいんだ、本当に。だからあんたが気にするコトもないんだ。だからキョーヤを怒る必要も何もない。あんたがしてあげられるのは――するべきなのは、キョーヤを慰めてあげるコトだ。」
「慰める…?」
疑念が湧いてくる。
何がどうという確固たるものがあるわけではなかったが、かみあわない。唐突にそう思ったのだ。疑念が。
疑念が。
「キョーヤ、アナタの前じゃあんなだったけど、本当は怖いんだ。」
疑念――――
「何が…?」
「アナタに、嫌われるのが。」
疑念、
これは本当に過去の俺なのか。




怒らせたのだろうか。
とりあえず困らせたのはまず間違いないだろう。
シャワーから流れる冷水を頭から被りながら雲雀は――本人は無自覚だったが――酷く気落ちしていた。冷えた身体すら自覚出来ぬ程に。
自分はいつもこうだ。
ディーノを、困らせたいわけでも怒らせたいわけでもないのに、どうしても彼の気分を損ねるコトばかりしてしまう。ディーノの困惑しきった顔が頭から離れない。彼の笑っている顔が、自分の下で泣いてくれる顔が、とてもとても好きだと言うのに。
…過去の彼に手を出したのは彼のハジメテをどうしても欲しいと思ったからだ。
雲雀はそれがディーノなら時間軸など関係なかった。10年前だろうが10年後だろうが本当にそんなもの一切関係ないと言い切れる程に雲雀はディーノに熱を抱いていた。
『ね、誰に教わったの。』
手馴れた仕草に知らずと頭の中がヒヤリと冷えた。
いつだって何度だって思うコトがある。どうして自分はもっと早く生まれてこなかったのか、そうしてもっと早く出会わなかったのか。
『今はお前だけだよ。』
伏せる瞼が憎い。
それすらも美しいと。色素の薄い睫の繊細さがまるで奇跡のようだと。
雲雀はどうしてもディーノに惹かれずにはいられない自身を呪った。
ディーノは愛をくれた。
雲雀が望むものを、彼の中で出来る限りの全てを雲雀にくれた。
…だから困らせたいわけじゃないのだ。
時間すら手中に収めて捻じ伏せて、全ての彼を独占したいと考えるのは間違っているのだろうか。雲雀はどうしてもディーノが欲しかった。
彼の全てが欲しかった。
「……恭弥、着替えここに置いとくぞ。」
曇りガラスのドアの向こう。ぼんやりとした人影が小さく動いている。
あれは、自分のものなのだ。
「―――…ね、冷たい。」
本当は感覚などどこか遠くにあって麻痺していたけれど。
「お前ちゃんとシャワー浴びて…?」
「うん。」
早くそこのドアを開けて。
そうして思いきり抱いて抱きしめて。欲しい。
アナタが。
「…アナタを頂戴。」




水音にかき消されそうになる雲雀の声を聞いて、ディーノは堪らない気持ちになった。
『あんたがするべきなのは――、』
そぅっとドアを開けると全く温かい気配がしない。もあっとした湯気も立ち上っていなかった。
跳ねる水滴が冷たい――…冷たい?
「―――ばっ…か!」
ディーノは慌てて雲雀を抱き寄せ、ついでコックを捻って水流を止めた。
じんわりとディーノの衣服に冷たい水が滲みてくる。
雲雀の身体は恐ろしく冷たかった。寝室にいたディーノに浴室からの水音が聞こえ始めてどれほど経っていただろうか?ずっとこんな冷たいものに晒されていたのかと戦慄する。
…それを肯定するように雲雀がディーノに擦り寄ってきた。
「うん。こうすると、アナタの体温がよくわかる…。」
『こうすると』
切る様に冷たい水流に晒されるのが?
すっぽりとディーノの腕に収まる雲雀が満足気に熱い息を吐いている。
―――…堪らない。
「ばかやろ…こんな冷たくなって…。」
衣服が水を含んで行くのを気にせず雲雀を抱きしめる。
触れるだけでも冷たいのだから、雲雀自身はもっと冷たいに違いない。
泣きたい。
そう思うのはこうして、雲雀の想いの欠片を痛切に感じる時だ。
雲雀は強くて気高く、孤高であると言うのに、ディーノに対してだけ、時折こうして不器用な想いを有体に寄せてくる。
『本当は怖いんだ』
(……俺だって怖いよ。)
あたたかい。
そう呟く雲雀の安心しきった顔がかなしい。
「……ちゃんとシャワーの温度上げて、ちゃんとあったまれ。」
「ヤダ。」
「恭弥。」
「こうしている方がずぅっとあたたかいもの。」
うっとりと。
それこそ永遠不変の真理とでも言うように。
ディーノの背に回された雲雀の手が離すものかとしがみつく。
ディーノは泣きたくて泣きたくて、それでもそうしてしまうと雲雀が傷つくのがわかっていたから、堪えるように雲雀の額に口付けた。
どうしてこんなに不器用なんだろう。
(お前も――…俺も。)
寝室にいる『ディーノ』は俺のコトはいいから早くキョーヤのトコに行ってと言って聞かなかった。あの子供は何なのだろうか。今のディーノよりもよっぽど、
「口がいい。」
「…ん?」
「ここ。」
くん、と。伸び上がった雲雀がディーノの唇に唇で小さく触れる。
冷え切っている唇にゾクリとした。雲雀のそこはいつも温度が低かったけれど、こんなに冷え切っているコトはなかったから。
だからディーノは少しでもあたためたいと。
覆うように雲雀の唇に己のそれを重ねる。
雲雀がそうぅっと瞼を閉じる様に胸を締め付けられた。
「…もっと。」
離すのを許さないと言外に語った唇が離れようとするディーノの唇を追う。
「…ダメだ。いい加減風邪引く。」
「頂戴。」
「―――ダメだ。」
「………くれないの。」
アナタを。
痛い、と。思ったのはディーノか。雲雀か。
「……そうじゃ、なくて。」
「…服が邪魔。」
じれったいと瞳で語った雲雀が、唇を押し付けながらディーノのシャツのボタンを器用に外していく。
「こらっ…。」
「こうした方が早く、あたたかくなる。」
しよう?
秘め事のように(実際に秘め事だけれど)息を吹きかけるように熱く、耳元で低く呟かれれば押しのけられない。ディーノとて、雲雀に熱を抱いているのだ。
「……さっき、ね。アナタのいいところ、新しく見つけたよ。」
「おまっ…え、なぁ。」
「今もそうなのかな。」
肩に額を寄せた雲雀を、どうしてもディーノは、




それでも冷えた雲雀を無視は出来ない。
後で何でも言うコト聞くから、と。それを交換条件にどうにか寝室までこぎつけて、そうしてそこにいるはずの子供がいないコトに気がつく。
「…どこに、」
慌てた。